コラム
クリニックの開業を考えている方であれば、対面だけではなく「オンライン診療」の可能性についても検討しているのではないでしょうか。
本記事では、クリニックの開業にオンライン診療を取り入れるべき理由と、そのメリット・デメリットを今後の見通しを含めて解説します。
対面診療と違い診療圏という概念が通じなくなりそうなオンライン診療の普及ですが、まだまだ過渡期といえる状況です。
将来の普及拡大が確実なオンライン診療について、現段階での基本的情報を確認しておくことにしましょう。
オンライン診療について厚生労働省の指針では、「遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為。」と説明されています。
つまりオンライン診療とは、医師と患者がどこにいても診療を行うことができる方法のことで、近年は規制緩和も進みました。
オンライン診療では医師と患者が対面することなく診察等を行えるのですが、施設基準に「対面診療を行える体制である」と記載があります。
また診療に必要な情報が限られるなかでも、「オンライン診療により医師が行う診療行為の責任については、原則として当該医師が責任を負う。」とされているので、安易に考えることは危険です。
オンライン診療を行うことで医療機関側に考えられるメリットは、以下のようなものが考えられます。
メリットを見ていくと、クリニックにとって「いいこと尽くめ」のようですが、これは利用できる患者側にとっても同様です。
オンライン診療と従来型の対面診療を比較すると、患者の状態を正確に把握することが難しく、薬の効果や副作用を確認することも困難という課題があります。
ただ対面診療との併用であれば一気に可能性が広がりますが、次のような問題も克服しなければなりません。
診療を受ける患者の多くは高齢者の方が想定されますが、スマートフォンやパソコンなどの操作に不慣れな方や、そもそも環境すら整っていない方も多いでしょう。
また少し古いアンケートで日本オンライン診療研究会が2019年に行った「オンライン診療に関するアンケート集計結果」というアンケートで、「通信不良により診療が行えなかった」や「通信不良により、コミュニケーションが十分取れなかった」という課題も浮き彫りになっています。
オンライン診療には少なくない設備投資が必要なことも高いハードルになっていますが、対面診療と比べて低く設定されている診療報酬も問題だといえます。
2024年の診療報酬改定の結果、オンライン診療の主な報酬は以下のようになりました。
オンライン診療 | 対面診療 | |
初診料 | 253点 | 291点 |
再診料 | 75点 | 75点 |
全体的に対面診療を重視しているような改定でしたが、新たに追加された項目に「情報通信機器を用いた診療は、原則として、保険医療機関に所属する保険医が保険医療機関内で実施すること。」という点と、それが出来なかったケースでは「情報通信機器を用いた診療を実施した場所については、事後的に確認可能な場所であること。」という要件が追加されました。
これは国のガイドラインで認めていない不適切な方法で診療を行っている医療機関があるという情報が厚生労働省に寄せられているための措置だと考えられます。
いずれにしても、対面診療より低めな診療報酬だという現実と、効率性のバランスを考慮する必要があるでしょう。
結論からいえば、オンライン診療だけで開業することは可能ですが、施設基準で「対面診療を行える体制である」という要件があるので、クリニックの設計には注意が必要です。
考えようによっては施設基準さえ満たせばオンライン診療だけで開業が可能だといえます。
ただ、現時点の状況を考えると対面診療の患者の一部をオンライン診療へ誘導することが現実的で、オンライン診療のみで開業した場合、どれだけ集患できるのかは疑問です。
ただ、現時点の状況を考えると対面診療の患者の一部をオンライン診療へ誘導することが現実的で、オンライン診療のみで開業した場合、どれだけ集患できるのかは疑問です。
オンライン診療は今のところサブ的な扱いとなっていますが、これからクリニックの開業を考えられているのであれば必ず対応すべきものです。
もちろん医療提供の基本は「対面」であることは変わらないにしても、オンライン診療を取り入れるべき理由について説明していきます。
クリニックや病院が「高齢者の集いの場」と批判されているのは事実ですが、そう批判していた圧倒的なボリューム層が「団塊ジュニア」で、そんな人たちも今や高齢者手前です。
不都合な真実でも高齢者ほど医療費が費やされているのは事実で、今後負増えていくのは「情報機器を使いこなせて、対面が苦手な世代」だということを認知しておきましょう。
今のところオンライン診療が脚光を浴びたのは、コロナウィルスが蔓延したときの感染対策として有効だったという事例でした。
コロナ禍も過去のことになり、今後を考えた場合に通信機器を使いこなせる高齢者が増えることは確実で、むしろオンライン診療をしていないクリニックが避けられる可能性すらあるでしょう。
先ほども言ったとおり若い世代ほど「WEBのオンライン上」で生きています。それが当たり前の世の中になり、むしろそれに対応できない医療機関は生きていけなくなるでしょう。
NTTドコモのモバイル社会研究所が2024年1月に行った調査によると、日本国内で携帯電話の所有者のうちスマートフォン比率が97%となっています。
つまり患者サイドのオンライン診療に対する環境は整っているわけで、クリニック側の対応が遅れると集患面でもマイナスになっていくことは容易に想像がつきます。
ただ、後述するようにクリニックがオンライン診療に対応するためには、設備の問題や対応できる体制づくりに決して低くないハードルがあるので、収益性が投資に見合うのかよく考えることが重要です。
オンライン診療を始めるためには、厚労省が保険医療機関に対して定める、人員や設備などの条件(施設基準)を満たしていることが必要です。
具体的には2022年3月に厚生労働省から発出された通知にある「情報通信機器を用いた診療に係る施設基準」がこれに該当します。
その内容を抜粋すると以下のとおりですが、厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(オンライン指針)も確認する必要があります。
出典:厚生労働省「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」
これらの条件を満たしたうえで厚生局へ届出をするのですが、施設基準だけではなくオンライン診療を行うためには「システム」「通信環境」「必要な機器」を揃えなければなりません。
とくに「システム」が重要で、オンライン診療の予約から決済に至るまでトータルに対応できることが必要です。
現実的にはベンダーの提供するオンライン診療システムを導入することになりますが、運用面を含めた慎重な検討が必要となります。
クリニックを新規に開業する場合には、すぐにオンライン診療を行うのではなくても施設基準を満たし、オンライン診療をするための届出をすることがオススメです。
オンライン診療を行うための届出は以下の書類が必要になります。
ここでポイントになるのが研修の受講で、厚生労働省は「医師は、オンライン診療に責任を有する者として、研修を受講することが義務」としています。
研修さえ修了していれば届出自体は難しいものではないので、クリニックの新規開業にあたっては専門家の知見を交えながら前向きに検討しましょう。
オンライン診療は、当初考えられていた姿は医療を受けにくい島嶼部や過疎地への医療提供を推進するためのツールでした。
しかし新型コロナウィルスの蔓延以降は、感染防止という新たな可能性も評価され規制緩和が進んでいます。
とはいえ2023年8月に厚生労働省医政局総務課が公表した「オンライン診療その他の遠隔医療に関する事例集」でも言及されているように、必ずしも幅広く普及が進んでいるとは言えない状況にあります。
その主な原因は「対面診療よりも点数が低く設定されている」ことや、「対面診療のほうが安心して診察できると感じている」という意思が多いからです。
とはいえ、世界的に見ても遠隔医療市場の規模は急拡大しており、日本においてもオンライン診療の市場規模は加速度的に拡大していくでしょう。
今は過渡期かもしれませんが、ガラケーがスマートフォンに変わったようなスピードで、オンライン診療が当たり前になる可能性を視野に入れておくべきです。
クリニックの開業にあたっては、ついつい従来型のノウハウを前提に考えがちですが、医療界にもDX化(デジタルトランスフォーメーション)の波が押し寄せています。
危機感を持つためには具体的事例を知ることがオススメで、ぜひノウハウの多いMedi-taxのご利用をオススメします。
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