コラム
クリニックの開業にあたり採用するオープニングスタッフは、クリニックのイメージを決定づける重要なポイントです。
その中でもキーになるのが看護師の存在で、クリニック開業の成否を左右するとさえいえます。
本記事では、クリニック開業時における看護師の採用について、募集・採用の進め方や必要人数、また開業後を見越した注意点について詳しく解説します。
クリニックの開業からその後の運営を円滑に進めるためには、看護師を含めた十分な人員配置が欠かせません。
とはいえ必要以上にスタッフを採用していますと、人件費がクリニック経営を圧迫することになってしまいます。
まずはクリニック開業に必要な看護師。スタッフの人数や待遇を考え、採用にあたって不安要素となる看護師不足の現状を考えてみましょう。
個人クリニックの開業では、ほとんどの場合院長である医師1人でスタートすることが多く、そうなれば1日当たりの診察数もおおよそ想像がつくことでしょう。
このようなクリニック開業では、看護師は1〜2名で十分業務を回せることが多いようです。
ただ、「最低限」を重視し過ぎて1名だけの採用になると、看護師が休暇を取ることもできなくなり、結果的に離職の原因となってしまいます。
そのため常勤看護師1名に加え、パート看護師1〜2名を採用するなどの体制がとれるのが理想です。
また、受付・事務スタッフは2〜3名で開業するケースが一般的で、これも常勤スタッフを中心にパートスタッフで出勤者数を調整できるのが望ましいといえます。
多くの個人クリニックでは、曜日や時間帯によって混み具合に大きな差があることから、人員配置を上手く調整できる体制が(可能であれば)ベストです。
厚生労働省が実施している「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、看護師の全国平均収入は以下のようになっていて、就業者の平均年齢は正看護師で41.9歳、准看護師は51.2歳です。
職種(資格) | 総支給額 | 年間賞与 | 年収 |
正看護師 | 35.21万円 | 85.65万円 | 約508万円 |
准看護師 | 28.68万円 | 62.95万円 | 約383万円 |
この統計は事業所規模10名以上の統計なので、個人クリニックと必ずしも合致しませんが、求職する看護師サイドからみれば待遇を比較する目安になるでしょう。
またパート看護師の全国平均時給は1.817円で、月当たりの平均勤務日数は14.8日、1日当たりの平均労働時間は5.9時間となっています。
看護師不足は最近になって始まったことではありませんが、近年それが加速している状況です。
その主な理由は以下の2点に集約され、いずれもすぐに解決できるようなものではありません。
人手不足については看護師特有の傾向があり、「高い離職率」と「女性看護師の復職が少ない」という特徴が見られます。
厚生労働省が令和4年度(2022年)に行った調査では、看護師及び准看護師の有効求人倍率は2.20倍で、全産業の平均値1.19倍を大きく上回っていることが分かります。
つまり、看護師の採用は他の病院・クリニックや在宅看護(介護業界)との奪い合いになると考えておきましょう。
看護師の採用はクリニックの開業において重要なポイントになるので、余裕のある採用スケジュールで臨むことが必要です。
そこでクリニック開業における看護師採用のポイントを、いくつかの面から考えてみましょう。
クリニック開業でオープニングスタッフとなる看護師の採用は、事業計画の段階から必要人数を決めておくようにしましょう。
医療法で定める配置基準によると外来診療では、患者30名に対して看護師あるいは准看護師1名が確保すべき人員とされています。
しかし、これは理論値であって実際にはクリニックの診療日や開業時間、患者数の増減によって必要な看護師数は変わってきます。
また1人の看護師に過度の負担がかかるような体制は、遠からず破綻するので待遇を含めた勤務体制を事業計画に落とし込み、適正な採用人数を考えておくことが重要です。
クリニック開業の準備を進めていくと、意外と早い段階でクリニックの開業日は決まるものです。
その開業日から逆算することで、看護師の採用スケジュールはある程度決まります。
一般的には開業日の1ヶ月前には物件の引き渡しが終わり、最終準備で大忙しになるので、それ以前に採用を終えておきましょう。
そこから逆算すると、概ね以下のようなスケジュールが基本となります。
時期 | 準備活動 |
5~6ヶ月前 | 採用人数を確定させる |
3~4ヶ月前 | 看護師の募集・書類選考・面接 |
2ヶ月前 | 採用の決定・契約 |
1ヶ月前 | 研修の実施・最終準備 |
開業場所によっては、求人に対して思ったほど応募が集まらないことも考えられるので、地域性も考慮した柔軟なスケジュールが必要です。
看護師の求人に応募してくる人は様々な事情をもっているので、こちら側の都合だけで話を進めてしまうと思わぬ失敗を招いてしまいます。
例えば現在他のクリニックや病院で勤務している看護師であれば、今の職場を退職するタイミングや、何を求めて応募してきたのか考慮することが重要です。
また、看護師が売り手市場であることを考えると、他のクリニックにも応募している可能性も考えておきましょう。
採用を決めていてもドタキャンされて慌てるパターンは、このあたりに考えが至らなかったケースです。
クリニック開業の1ヶ月前からは、事務スタッフを含めた研修を行いますが、ここを雑に進めてしまうと開業後のトラブルに直結します。
クリニックの開業にあたっては内覧会を行うことが一般的なので、研修もそれまでに終えておくことが必要です。
研修以外にも物件の引き渡しから開業までの期間はあっという間に過ぎるので、最終準備にもオープニングスタッフの力は欠かせないものになります。
クリニックの開業にあたっての看護師募集・採用はいくつかの方法がありますが、その実効性をよく考えておくことが重要です。
スタッフを採用できなければ、クリニックの開業も延期になってしまうので、考えられる募集・採用方法のメリット・デメリットと注意点を説明します。
クリニックの開業前に同じ勤務先で働いていた看護師であれば、人柄やスキルを熟知していることから、オープニングスタッフとしてこれ以上心強い存在はないでしょう。
ただし、独立開業に伴っての看護師引き抜きは、今の勤務先からみてもあからさまな行為なので、トラブルには十分注意しなければなりません。
スカウトされる看護師にしても、後味の悪い退職は望んでいないはずなので、慎重に話を進めることが求められます。
ハローワークへ求人を登録するのは無料でできますが、看護師の求人手段としては効果が期待できない方法です。
それであれば求人誌などの媒体を利用したほうが効果は望め、とくに受付・事務スタッフの求人方法としては一般的な方法だといえます。
ただし、このような求人媒体は枠の大きさなどで比較的高い費用がかかり、また同業のクリニックと採用条件など比較されやすい点を考慮しましょう。
看護師など専門性の高い人材を求める場合、人材紹介会社を利用することも選択肢の一つです。
複数の人材紹介会社を利用すれば、ほぼ確実に看護師との面接までは至りますが、いくつかの注意点があります。
一つはコストの高さで、一般的な人材紹介会社であれば採用した看護師の想定年収の20〜30%の紹介手数料が発生します。
また、少なくない紹介会社は「看護師という有資格者」を斡旋するだけで、「良い看護師」を紹介してくれるわけではありません。
この方法を使うときは、ある意味で採用活動に行き詰ったときなので、紹介会社を利用しないで済ませるのが理想です。
クリニックの開業で看護師の採用は、かなり苦労することが多い作業になります。
求人に対して応募があることが絶対的な条件ですが、あることを前提に採用までの工程を確認してみましょう。
看護師の募集を始める前に、給与や勤務時間など詳しい雇用条件を決める必要があり、それがなければ求人することもできません。
特に労働基準法で定められている以下の絶対的明示事項は、最低限決めておくべき内容です。
これら以外にも応募してくる人からは、「社会保険の有無」や「退職金制度」など様々な質問が出るはずなので、併せて検討しておきましょう。
募集条件が決まったら、ハローワークや募集媒体、開業予定を発信する自院のホームページなどで求人します。
応募者が増えてきたら必要に応じて書類選考を行うのですが、数が多い場合は院長自ら全て行うのは大変なので、コンサルを活用することがオススメです。
コンサルには書類選考だけではなく、面接時に使用する質問票や採点表なども、希望する人物像を伝えながら作成してもらいましょう。
リモート化などが進んだ現在でも、対面での面接は採用において極めて重要な工程となります。
これはクリニックの開業は比較的小規模でスタートするため、好ましくない職員が1人でもいると職場が瓦解する可能性があるからです。
応募者には在職者もいるはずなので、面接日時は余裕のあるスケジュールを組むようにしましょう。
また、在職者であれば現在の勤め先へ退職日の1ヶ月以上前に退職届を出すはずなので、開業日の2ヶ月以上前に面接を済ませることが必要です。
もし思ったように採用が進まないようなら、人材紹介会社の活用や、場合によっては開業の延期をも考えます。
院長自身が納得できないスタッフで開業しても成功はおぼつかないので、ここは冷静に判断すべきポイントです。
採用活動の中で良いオープニングスタッフ候補が見つかったら、できるだけ早く採用する旨を伝え、採用決定通知書を送ります。
有能(だと思える)な人材は、他のクリニックでも同じような評価をするはずなので、採用は早い者勝ちです。
看護師は言うに及ばず、事務スタッフなども同業界だけじゃなく他業種と人材の奪い合いだと思うべきで、今後さらに採用難がひどくなるでしょう。
また、面接で不採用になった方への配慮も重要で、丁寧に書面でお知らせし、面接へ来てくださったお礼として少額の商品券などを添えるなどの工夫が必要です。
新規に開業する内装工事も終わり、オープニングスタッフも揃ったらスタッフ研修を実施しましょう。
院長をはじめ全員が経験者であったとしても、チームとしては初顔ばかりなので、そのままではスムーズな連携は難しいものです。
クリニック開業日の直前になると内覧会や雑事が増えてしまうので、スタッフ研修は遅くても開業の2〜3週間くらいまでには行いましょう。
そのため採用した各スタッフには、勤務開始日がスタッフ研修のスタート日であることを伝えておくことも必要です。
研修の初日には、開業に対しての思いや経営理念、診療方針などを、院長自らの口でスタッフに伝えましょう。
スタッフが院長と同じ方向に進むことが、クリニック開業を成功させる最低限のポイントとなります。
クリニック開業には長い準備期間や苦労がつきもので、開業日になったときには大きな達成感を覚えることでしょう。
しかしクリニックの開業日は、それから長いクリニック経営のスタートに過ぎず、様々なトラブルを回避するための工夫が必要になります。
ここではクリニック経営で起こりがちな看護師を含めたスタッフの退職や、スタッフ間のトラブルを回避するためのポイントを考えてみましょう。
看護師やスタッフが定着せず離職の多いクリニックには、いくつかの共通した問題点が潜んでいます。
その多くは、院長の考え方とスタッフの思いの乖離が原因で、スタッフの離職理由を見ていくと少しは理解できるでしょう。
これらはクリニックの業績向上と表裏一体の関係にある要素で、スタッフに無理を強いるほど利益は上がるものです。
しかしスタッフがすぐに辞めるクリニックは、長期的に見ても患者様の評価面ではマイナスに作用します。
スタッフの増員や昇給など、将来的なコストの増加も考えておかなければ円滑なクリニック運営はできなくなるでしょう。
スタッフが定着しないクリニックでみられるもう一つのポイントが、スタッフ間のトラブルやクリニックの雰囲気にあります。
開業したてのクリニックは少人数体制でスタートし、なおかつ女性スタッフが多いのが普通なので、人間関係のトラブルが発生しやすい環境なのかもしれません。
小さなトラブルのうちに芽を摘んでおかないと取り返しのつかない事態になるので、職場環境やスタッフの変化には敏感になる必要があります。
また、院長としては各スタッフへ公平に接することが絶対で、それが自身への信頼となることを自覚しましょう。
医療業界全体が深刻な看護師不足であるせいか、少なくない確率でトラブルメーカーとなるダメ看護師を採用してしまうことがあります。
クリニックの開業では看護師の採用が不可欠なので、怪しい気配を感じても目をつぶって採用してしまうことも大きな原因です。
しかし職場を壊してしまうような人物だったら、クリニック経営どころではなくなってしまいます。
このような事態を想定して雇用契約をする際には「試用期間」を設けるべきでしょう。
試用期間中だからといって自由に解雇できるわけではありませんが、少なくとも本採用後より多少ハードルは下がります。
ただ、解雇まで考慮する事態というのは、すでにトラブルが深刻化しているはずなので、そうならないような方策を考える方が先です。
クリニックの開業において、看護師や事務スタッフなどを募集・採用する難易度は高まり続けています。
今後も人材難は多くのクリニックを悩ます要素で、今までの常識で考えていては開業すらおぼつかなくなることも考えられるでしょう。
人件費の高騰はクリニックの事業計画にも大きな影響を及ぼすので、時代に即した事業計画策定が必須です。
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