コラム
「どうしてスタッフが定着しないのだろう」と悩むクリニック経営者は少なくありません。職場環境、人間関係、給料や労働条件など、スタッフが辞める理由はさまざまです。一見、個々の事情のように思えるこれらの問題ですが、実は共通する特徴や背景が存在します。
また、これらに対する対策を講じることで離職率を抑え、クリニック全体の運営を改善することが可能です。
この記事では、スタッフが辞めるクリニックに見られる特徴を掘り下げ、その原因と解決策を具体的にご紹介します。スタッフの離職を防ぎ、働きやすい職場環境を整えるヒントを見つけてください。
クリニックスタッフが辞めてしまう原因はいくつかの背景があり、それらが複合的な理由となって退職に至るケースがほとんどです。
ここでは、スタッフが辞めてしまう原因について解説します。
クリニックスタッフが辞める主な原因として、職場の雰囲気や人間関係の悪さが挙げられます。この問題は多くのクリニックで最も多いとされる退職理由の1つです。新人スタッフにおいては、先輩からの叱り方や指導が厳しすぎたり、失敗以外のことまで注意されたりすると萎縮してしまい、退職につながります。
また、現場の忙しさから緊張感やストレスが高まり、スタッフ間の雰囲気が悪くなることがあります。他にも年齢が近い同僚や気の合う者同士でグループができ、輪に入れないなどの隔たりによる人間関係の悩みも多い状況です。
過剰な仕事量は、スタッフを身体的にも精神的にも疲弊させます。仕事量が多いとプライベートの時間を持つのが難しくなり、ストレスが蓄積するからです。長い期間にわたって過度の仕事量が続くと、スタッフのやる気や健康を損なうリスクが高まります。
また人手不足などにより、診療時間外の業務や休日出勤が重なると、スタッフの負担はますます大きくなるでしょう。過度な仕事量はスタッフの集中力や効率性を低下させるだけでなく、患者にも影響が及ぶ可能性があるため、提供する医療の質にも影響を及ぼします。
給料が低いことは、スタッフにおいてさまざまな不安やストレスにつながる要因です。どんなに頑張っても給料が上がらない場合、スタッフの意欲が失われてしまうからです。クリニックは病院や一般企業と比べても、昇給や賞与、退職金などの待遇面で劣る点が多いため、将来的にも経済的な不安を感じやすくなると言われています。
特に開業間もないクリニックでは、キャリアに応じた昇給や賞与などの給与体系が確立されていないことが多く、スタッフの意欲を阻害してしまう可能性があります。
給料だけでなく福利厚生面でも不満に感じることもあるため、トータル的な見直しが重要です。
クリニックスタッフが辞める主な原因として、希望通りに休暇が取れないことも挙げられます。この問題は、多くのクリニックにおいても深刻な離職理由の1つです。休暇が取れない場合、プライベートな時間の確保が難しくなりストレスが増します。
また、十分な休息が取れないため身体的・精神的な疲労が蓄積し、業務効率の低下や健康問題につながる可能性も否めません。
さらに、仕事に対するモチベーションが低下し、結果として離職につながってしまうのです。令和元年に実施された厚生労働省の調査においても、前職の離職理由として「休暇が取りづらかった」ことが24.7%を占めており、重要な問題となっています。
できるだけ希望通りにお休みが取りやすくなるように配慮しましょう。
参考:厚生労働省職業安定局需給調整事業課|医療・介護分野における職業紹介事業に関するアンケート調査
クリニックスタッフが辞める主な原因として、ワークライフバランスの悪さも挙げられます。仕事とプライベートの両立が困難になることで、ストレスが蓄積し、モチベーションの低下にも直結しやすくなります。
特に看護師の場合、業務内容の負荷だけでなく交代勤務によっても生活リズムが乱れやすくなってしまうため、よりストレスを感じやすくなるでしょう。
医療機器や業務システムが古い場合、スタッフの業務効率や働きやすさに大きな影響を与えます。古い機器やシステムは処理速度が遅く、スタッフの作業時間が増加するからです。
また、古い機器やシステムは操作が複雑だったり操作性が悪かったりするため、スタッフに余分な負担をかけやすくなります。
案外見落としがちですが、古い設備で働くことはスタッフのやりがいや職場への満足度を低下させる要因になるのです。
院内が古く清潔感がない場合、スタッフのモチベーションや職場環境に大きな影響を与えます。
古い環境は空調の効きが悪い、導線が悪い、使い勝手が良くないなどの不満につながりやすく、スタッフのモチベーションを低下させます。
特にクリニックの場合、清潔感のない古い院内で働くことは、医療を提供する立場としても不適切と言えるでしょう。院内の状態はスタッフの働きやすさだけでなく、患者の信頼にも直接影響するからです。
仕事にやりがいを感じられないことは、多くのクリニックで深刻な離職理由となっています。仕事にやりがいを感じられない場合、日々の業務が単調に感じられ、仕事への意欲が失われてしまうからです。
特に以前病院勤務を経験していたスタッフの場合、前職との業務に不満を感じ、キャリアが形成されないと感じるケースも少なくありません。やりがいのない仕事は、医療従事者としての誇りや成長が損なわれる可能性があるからです。
クリニックスタッフが辞めないためにはどのような対策があるのでしょうか。ここでは、クリニックスタッフの退職を防ぐための対策について紹介します。
クリニックスタッフの離職を防ぐために、スタッフとのコミュニケーションを充実させると良いでしょう。積極的なコミュニケーションはスタッフの満足度を高め、職場環境を改善する上で非常に重要だからです。コミュニケーションにおける改善策として、以下のような方法があります。
スタッフと定期的に個別面談を行うことで、悩みや不安を直接聞き出せるため、タイムリーに問題把握ができます。普段の会話では出てこない内容も、個人面談を通じては引き出しやすくなるためおすすめです。
また、週に一度のミーティングなどを行うなど、チーム全体で自由に意見交換ができる場を設けるのも良いでしょう。これにより、スタッフ間のコミュニケーション不足を解消できます。
さらに、匿名で相談できる窓口の設置や定期的なアンケートの実施など、スタッフが気軽に相談できる環境を整えるのも1つの方法です。
院長自ら朝礼や定例ミーティングでクリニックの方針を伝えるだけでなく、スタッフに積極的に話し掛けてコミュニケーションを取るのも重要です。
クリニックスタッフの離職を防ぐため、給料や福利厚生の見直しも重要な対策の1つです。これらの改善は、スタッフの満足度を高め、長期的な定着につながる効果的な方法だからです。給料や福利厚生の見直しとして、以下のような方法があります。
勤務状況や勤務態度、資格の取得などが昇進や昇級、給与に反映される制度を設けます。
また、スタッフのライフスタイルに合った福利厚生を導入し、採用力の向上を図るのも良いでしょう。例えば、勤務先のクリニックを受診した際の医療費の一部還付や、人間ドックの費用負担などの制度の設置も有効かもしれません。
さらに、公平で透明性の高い人事評価制度を導入し、スタッフのモチベーションアップにつなげるのも効果的です。この場合、クリニックの経営理念を反映した評価基準を設定し、組織力の向上を図るようにしましょう。これらの対策を実施することで、以下のようなメリットが期待できます。
給料や福利厚生の見直しは、短期的にはコスト増加につながる可能性があります。
しかし、長期的には質の高い人材の確保・維持につながり、クリニックの安定的な運営と成長に寄与します。
クリニックスタッフの離職を防ぐための重要な対策として、余裕を持った人員採用が挙げられます。余裕を持った人数のスタッフを採用することで、以下のような効果が期待できます。
スタッフ1人あたりの業務量が適切になることで、スタッフが本来担当すべき業務に集中できる環境が整い、ストレスを軽減させます。
また十分な人員の確保は、スタッフの希望に沿ったシフト調整や休暇の取得が可能になり、働きやすさも向上します。
さらに余裕のある人数は、新人教育や継続的な研修の時間にも充てることができるため、クリニックの質の向上にもつながるでしょう。余裕を持った採用は、短期的にはコスト増加につながる可能性があります。
しかし、長期的にはスタッフの満足度アップと離職率低下にもつながるため、安定したクリニック運営に貢献します。
医療機器や業務システムのアップデートは業務効率の向上とスタッフの満足度向上に大きく貢献します。医療機器や業務システムのアップデートによる効果は、以下の通りです。
古い医療機器を使用し続けると作業に時間がかかり、スタッフにとってストレスになるものです。
そのため新しい医療機器や最新のシステムの導入は、スタッフの業務負担を減らし、少人数でも無理なく業務を進められるようになります。
また、新しい医療機器や最新のシステムはスタッフの仕事へのモチベーションもアップさせます。最新機種を導入しているクリニックという誇りを感じられるからです。
さらに最新の技術の活用で、人的ミスを減らすだけでなく医療サービスの質も向上するため、顧客満足度にもつながるでしょう。
築浅でキレイな物件を選ぶことは、スタッフの満足度向上と職場環境の改善に大きく寄与します。築浅でキレイな物件を選ぶことによる効果は、以下の通りです。
新しく清潔な環境で働くことで、スタッフの仕事へのモチベーションがアップします。古く汚れた環境は、スタッフの仕事への意欲を削ぐ可能性があるからです。
また、新しい建物は最新で便利な設備とレイアウトを備えていることが多く、スタッフの業務効率が向上します。この他にも築浅の物件は清掃や消毒がしやすいため、医療環境に求められる高い衛生基準を担保しやすくなります。
さらに新しい物件では、スタッフルームに電子レンジや冷蔵庫、ポットを設置したり、仮眠スペースを設けたりするなど、スタッフの満足度を高める効果もあります。クリニック経営者は、物件選びが単なる場所の確保ではなく、スタッフの定着率と医療サービスの質に直接影響することを把握しておきましょう。
やりがいを感じる職場環境にすることで、スタッフのモチベーションアップや定着率の向上につながります。スタッフにやりがいを感じてもらうための具体的な方法は、以下の通りです。
スタッフが自分の成長を実感できるよう、院内表彰制度や報奨金を支給する制度を導入するのも1つの方法です。日々の業務でスタッフがクリニックに貢献してくれているのを可視化し、感謝や評価を伝えることでモチベーションがアップします。
また定期的に個別の面談を行って、一人ひとりの悩みや希望などを吸い上げる場を儲けるのもおすすめです。真摯に向き合ってくれているという印象を与えやすくなるからです。
適切な教育制度は、スタッフの成長とモチベーションのアップにつながるだけでなく、定着率の向上にも寄与します。効果的なスタッフ教育制度を整えるためのポイントは、以下の通りです。
最新の医療知識や技術を習得できる機会を提供することで、スタッフの専門性が向上し、仕事への自信とやりがいにつながります。研修や勉強会のあとにスタッフから感想を聞き、その意見を反映させることで、より良いクリニック作りにも寄与します。
その他にも、教える人によって内容にばらつきが出ないようマニュアルを整備したり、新人スタッフが学びやすい環境を整えたりとサポート体制を構築するのも良いでしょう。
雇用する前に適性検査を実施するのも離職を防ぐ方法の1つです。適性検査の導入には以下のようなメリットがあります。
適性検査により、候補者の性格、スキル、対人関係能力などが明らかになるため、採用後のミスマッチを防げます。
また、適性検査は数値化された結果を出せるため、他の候補者との比較がしやすくなります。
さらに、面接や履歴書だけでは判断しにくい候補者の特性や思考力、数値能力、論理性などの基礎的な能力を測定できるのもメリットです。これらの能力は、医療事務や患者対応など、クリニックでの業務に不可欠だからです。
適性検査の導入でクリニックの環境に適した人材が採用でき、スタッフの定着率を向上させることができるでしょう。
クリニックスタッフの離職を防ぐための効果的な対策として、医療コンサルタントなどの専門家に相談するのもおすすめです。この方法には以下のようなメリットがあります。
専門家は外部の目線で問題点を分析し、クリニック内部では気づきにくい課題を指摘してくれます。これにより、効果的な施策を打ち出してくれるからです。
また、医療コンサルタントは多くのクリニックの事例や最新の業界動向に精通しており、スタッフの定着率向上に有効で具体的な施策の提供が可能です。社会保険労務士などの専門家と提携しているコンサルタントも多いため、労働条件や福利厚生の見直しも行えます。
医療コンサルタントなどの専門家への相談により、クリニックの運営や人材管理に関する幅広い知見が活用でき、スタッフの定着率向上に対する効果的な対策が可能となります。
クリニックスタッフの退職に関するよくある質問をまとめました。ぜひ参考にしてください。
クリニックスタッフの平均給与は職種によって異なります。正看護師の場合、経験年数によって異なりますが1年目で月給30万円、5年目で34万円ほどです。医療事務の場合も経験年数によって異なりますが、1年目で月給20万円、3年目で21万円ほどと言われています。
これらの給与は地域や診療科目、クリニックの規模によって変動するため、あくまで目安となっています。
クリニックスタッフの退職率は、職種や医療機関の規模によって異なります。クリニックなどの個人が運営する医療機関では、既卒採用者の離職率は32%と高い状況です。
また、医療機関全体の看護師の離職率は以下の通りです。
さらに都市部では離職率が高く、東京都と神奈川県が14.6%、大阪府が14.3%となっています。小規模のクリニックや都市部では離職率が高い状況です。
クリニックを即日退職することは原則として認められていませんが、特定の条件や状況によっては可能です。原則民法第627条に基づき、雇用期間の定めがない場合は退職希望日の2週間前までに退職の意思を伝える必要があります。
雇用期間が定められている場合(有期雇用契約)には、契約期間中の退職は基本的に認められません。ただし、やむを得ない理由がある場合は例外で以下の通りです。
民法第628条に基づき、以下のような「やむを得ない理由」がある場合には即日退職が認められる可能性があります。
クリニックを即日退職することは原則として難しいですが、「やむを得ない理由」がある場合やクリニック側の同意が得られた場合には可能です。
クリニックスタッフが辞める原因にはいくつかあり、複合的な問題が絡むケースが多い状況です。職場の雰囲気や人間関係、仕事量の多さ、給料の低さ、希望の休みが取れないこと、古い医療機器や清潔感のない院内環境、やりがいが得られないなどが挙げられます。
この課題を解決するために、適正な人員を確保し、給料や福利厚生を見直すことで、スタッフの働きやすさを向上できる可能性があります。
また、スタッフと定期的にコミュニケーションをとり、課題を早期に把握するのも良いでしょう。
さらに、医療コンサルタントを活用すると潜在的な問題にも対処でき、より満足度と定着率の向上につながります。
クリニックの安定的な経営のために、まずはできることから始めてみましょう。