コラム
クリニックを運営する上で、適切なスタッフの人数はどれほど重要なのでしょうか。患者数の増加に伴い、スタッフが不足すると医療の質が低下し、患者満足度にも影響を及ぼします。特に、看護師や受付・事務スタッフの役割は、クリニックの運営において欠かせない存在です。しかし、適正人数を見極めることは容易ではありません。
また、適正人数や人件費のコントロールにとらわれすぎるのも得策とは言えません。人件費を抑えるためにパートスタッフを採用することは一つの手段ですが、離職や人間関係のトラブルが生じる可能性もあります。
この記事では、クリニックにおけるスタッフの種類や適正人数の考え方、適正人数以外の大切な要素についても紹介します。
クリニックでは、一般的に医療に直接従事する看護師や看護助手と、事務手続きを行う受付・事務スタッフが在籍しています。
それぞれの役割について紹介します。
クリニックにおける看護師と看護助手の主な仕事は以下のとおりです。
看護師 | 看護助手 |
・医療行為の実施 ・患者の健康状態の観察と記録 ・投薬や処置の補助 ・患者や家族への医療指導 | ・患者のケア ・看護師のサポート ・病室や医療機器の清掃 ・受付や事務業務 |
看護師と看護助手は似ているように思えますが、看護助手は医療行為を行うことはできません。
そのため、看護師の補助や事務スタッフの補助などに従事するのが一般的です。
クリニックの受付・事務スタッフの主な仕事は以下のとおりです。
主にクリニックの受付にいるのが受付・事務スタッフです。来院した患者から診察券や保険証を受け取って問診票の記入を依頼したり、患者からの問い合わせや予約の確認を行ったりします。
そのほかにも、カルテの管理や次回の予約の案内、クリニックの清掃・片付けなどにも対応しています。クリニックのバックオフィス業務を担う存在です。
クリニックの経営者にとって、クリニックスタッフの適正人数はどのくらいなのかわからない方も多いのではないでしょうか。
ここでは、クリニックスタッフの適正人数の考え方や算出方法、注意点について解説します。
クリニックスタッフの適正人数を患者数に基づいて考える方法は、以下のとおりです。
1. 最大患者数の70%を基準とする
2. 来院患者20人に対して1人のスタッフが適正人数
例えば、1日の最大患者数が200人の場合
200人の70% = 140人
140人 ÷ 20 = 7人
この場合、適正なスタッフ数は7人です。
ただし、この人数はあくまで目安であり、クリニックの規模・診療科・地域の特性などによっても変わります。また、混雑時間帯や繁忙期などによっても変動します。
そのため、実際の人数はクリニックの財務状況や人材の質、常勤とパートのバランスなども考慮して決定すると良いでしょう。
クリニックスタッフの適正人数を考える上で、売上高に応じた人件費率は重要です。一般的に、クリニックの人件費率の目安は月間売上の20〜25%程度と言われています。
ただし、この数値はクリニックの形態によって異なります。
人件費率(%) = 人件費/医業収益×100
例えば、医業収益が1億円で人件費が4500万円の場合、人件費率は45%です。適切な人件費率の維持は、経営の安定性と優秀なスタッフの確保に貢献します。
しかし、人件費率が高すぎると経営が圧迫され、低すぎると優秀なスタッフの確保が難しくなります。
人件費率は一律に判断できるものではありませんが、人件費を投資と捉えることも重要です。クリニック全体の業務効率や患者の評価につながることも忘れないようにしましょう。
クリニックスタッフの適正人数を算出することは重要です。しかし、その数字にとらわれ過ぎないことも大切です。
なぜなら、患者数は予測できないものであり、季節によっても変わるからです。そのため、患者に最適な医療を提供するためには、繁忙期やニーズに合わせて適切な人員配置が求められます。
また、単に人数を満たすだけでなく、優秀な人材を確保することも重要です。優秀な人材の確保は質の高い医療の提供を可能とし、患者の満足度や収益アップに直結するからです。
適正人数はあくまで目安であり、クリニックの特性や状況に応じて柔軟に対応することが大切です。
クリニック経営において、人件費削減のためのパート採用にはメリットもありますが、デメリットもあります。
・人件費が削減できる
・社会保険料が抑制される
・人員配置が柔軟
パートは時給制や日給制のため、働いた分だけ給与を支払うので人件費が削減でき、条件によっては社会保険料も安く抑えることができます。
また、繁忙期と閑散期に合わせて調整しやすいのもメリットです。
・責任感が欠如しやすい
・残業が難しい
・スキルアップしにくい
働ける時間に制限があったり、限られた業務をすることが多かったりするため、スキルアップしにくいのが現状です。そのため、パート採用は人件費削減に効果的ですが、クリニックの質の維持や長期的な成長を考慮すると、正社員とパートのバランスを考えることをおすすめします。
クリニックの規模・業務内容・経営状況に応じて、適切な人員配置を検討することが大切です。
適正な人数でスタッフを配置したいとしても、離職や不測の事態でスタッフが足りなくなることもあるでしょう。
ここではスタッフが不足した場合に起こりやすい問題を紹介します。
スタッフが不足すると、一人あたりの業務量が増えます。業務量の増加は以下の問題につながりやすくなります。
クリニックは医療を提供する場であるため、神経を使うことも多い職場です。スタッフが不足すると業務に追われたり、ストレスによって感情的になったりすることが増えます。
そのため、コミュニケーションが良好でなくなり、職場の雰囲気も悪化しやすくなります。クリニックでの雰囲気の悪化や人間関係のトラブルは離職の理由の上位を占めるものであるため、避けなくてはいけません。
スタッフの離職防止のためにも、適切な人員の確保が重要です。
スタッフ不足による医療の質の低下は、クリニックにとって避けなくてはいけない問題ですなぜなら、患者ケアの質が低下したり、医療ミスにつながったりする恐れがあるからです。
少ない人数で多くの患者に対応しなくてはいけない場合、一人あたりの患者対応時間が減るだけでなく、十分な処置ができなくなる可能性もあります。
このような状況を避けるためにも、適切な人材の確保が大切です。
スタッフ不足による離職率の増加も避けたい問題の一つです。
離職率が上がる原因は以下のとおりです。
スタッフの不足はさらなる離職を招きやすくなり、悪循環に陥りやすくなります。特に医療・福祉業界の離職率は令和5年に14.6%(※1)で、他の業種に比べても高水準です。
また、看護師の約80%(※2)が「仕事を辞めたい」と回答しているケースもあり、離職率の増加は深刻な問題です。
根本的な原因を把握し、働きやすい環境を整えることが急務となっています。
※1 厚生労働省「令和5年 雇用動向調査結果の概要 2.産業別の入職と離職」
※2 日本医労連・全大教・自治労連「2022 年看護職員の労働実態調査」記者発表資料」
クリニック運営において適正人数を維持することは重要です。しかし、他にも大切なことがあります。
①採用時の見極め
②優秀な人材の確保
③離職の防止
④キャリアアップの機会を提供
⑤適切な給与水準の設定
⑥働きやすい環境を整える
それぞれ解説します。
適正人数以上に重要なのは採用時の人材の見極めです。
優秀な人材の採用は、医療の質向上と患者満足度の向上につながるものであり、クリニックの運営と成長にも直結するからです。
そのため、採用時の見極めには以下を確認すると良いでしょう。
クリニックに見合った人材の確保は、クリニックの評判向上や患者数の増加につながり、投資以上の効果が得られる可能性が高まります。
適正人数を考慮しつつ、質の高い人材の採用が大切です。
優秀な人材は高度な医療知識と技術を持ち、患者に質の高い医療サービスを提供できる存在です。チーム全体の医療レベルまでも引き上げる効果もあるかもしれません。
また、優秀な人材は長期的にみてもクリニックに貢献する可能性が高いと言われ、安定した運営を支える基盤になります。
さらに優秀な人材をリーダーにすることで、チームワークを向上させ、良好な職場環境を作り出す存在にもなるでしょう。
結果、患者の満足度を高め、新規患者の獲得や既存患者の定着に寄与する存在になるはずです。
離職の防止はとても重要です。
理由は以下のとおりです。
スタッフの離職は医療の質が低下するだけでなく、クリニックの人間関係や職場環境の悪化に直結します。離職が離職を生みやすくもなるため、できる限り離職は避けたいものです。
そのためには、院長自らが積極的にスタッフとコミュニケーションを取ったり、個別面談を実施したりし、悩みなどを吸い上げると良いでしょう。
適切な対策を講じることでスタッフの満足度を高め、離職の防止につながります。
キャリアアップの機会の提供も大切な要素です。キャリアアップの機会を提供することで、スタッフの専門性と技能が向上し、モチベーションの維持につながります。
結果として、医療サービスの質の向上や患者の満足度もアップするはずです。
また、役職制度の導入や年功序列に依らない昇進の機会を提供するのも良いでしょう。キャリアアップの機会を提供することは、スタッフの専門性を高める機会にもなるため、モチベーションや責任感も向上にもつながります。
クリニックにおいて、適切な給与水準の設定も非常に重要です。優秀な人材の確保やスタッフのモチベーション向上、医療サービスの質の維持、労務トラブルの防止のためにも不可欠だからです。
適切な給与水準設定の方法は以下を参考にしてください。
特に医療業界の給与水準は、仕事の大変さに見合わない給与水準が多く見られます。人材確保のためにもインセンティブ制度を導入したり、キャリアパスに連動した昇給ができるようにしたりするなどの対策がおすすめです。
競合医療機関との比較や地域の相場を考慮しつつ、スタッフの満足度と経営の持続可能性のバランスを取ることが重要です。
働きやすい環境への配慮も忘れないようにしましょう。働きやすい環境もスタッフのモチベーションやスタッフの定着率アップに直結するからです。
医療従事者はストレスを感じやすい環境下で業務を行っているため、適切な休憩スペースの提供は不可欠です。
また、育児休暇・介護休暇制度の充実や残業削減にも取り組むべきです。制度の充実や残業削減は、クリニックの持続可能な発展につながる重要な要素だからです。
スタッフの満足度向上が医療サービスの質を高め、患者満足度にも直結することを意識しましょう。
クリニックでのスタッフの適正人数は、患者数や売上高に基づいて決定されます。一般的には、最大患者数の70%を目安にし、来院患者20人に対して1人のスタッフが必要とされています。
また、人件費率はクリニックの収入の約15%が理想とされ、これを超えると経営が厳しくなると言われている数値です。
しかし、適正人数や人件費率にこだわってしまうと適切な医療サービスが提供できなくなる恐れがあります。場合によってはスタッフの離職にもつながってしまい、クリニックの経営にも大きな影響を及ぼします。
クリニック経営には、紹介した適正人数よりも大切なことがあることを意識し、スタッフと患者にとって、より良いクリニックになるよう努めましょう。